双子の6のお題[No.2]:気付かせてくれる人
カノンは仮定が嫌いだ。
「もしもなになにであったなら」そういう想定。
意味がなくて不毛だから時間の無駄だと、そう言っていた。
サガは全く逆。
いつだって「あの時、こうしていたなら」そう考えている。
二人が対立するのは大体そんな価値観の違いの時。
常時では言葉すら不要な二人なのに、「もしも」の話の時はいつも平行線。
二人の意見を聞くアイオロスとしては、双方ともが正しいのだ。
間違ってはいないのだから、わざわざ一つに纏め上げなくていいと、そう思っている。
「もしもボックスがあればいいかもね」
昼下がり、双児宮でアイオロスは呟いた。
なんとなく考えていた思考がまとまり、聞かせるつもりではない呟きが漏れる。
サガとカノンが揃って怪訝な顔をして作業の手を止めた。
二人は聖域の書類整理をしている。
カノンは海界筆頭でもあるから不味いのかもしれないが、女神が直々にカノンに頼んだらしい。
本来はアイオロスも手伝うべきで、手伝うために双児宮にいる。
カノンが手伝いサガが要領よくやっているので、あえてアイオロスが手伝う必要がなかった。
間にアイオロスが入ってしまうと、逆にきっと邪魔になってしまうのだ。
双子から怒られるが、言ってしまうとアイオロスは暇だった。
「もしもボックス?」
「何それ」とカノンは真っ正直に聞いてきた。
サガも何だか言いたげな顔だ。知りたいのかどうでもいいのか判断がつかない。
「知らない?日本産の猫型ロボットの秘密道具だよ。『もしも』を叶えてくれる」
「日本のか学力はそこまで凄いのか?……猫型ロボットにそんな機能を付けるなんて」
サガが目を輝かせる。
カノンは口にこそ出さないものの「そんなはずがない」と目で言っている。その通りなんだけど。
「『もしも何々がなかったら〜』とか『もしもこんなことがあったら〜』とかを
電話ボックス型の機械に言うと世界がそう変わる」
「妄想か?」
「まぁ、都市伝説ではラストは植物状態ののび君の夢って話もあるらしいね」
アイオロスの言葉にサガが気が付いたように、
「話ということは、日本のロボットではないのか」とちょっと残念そうに呟く。
カノンは「当たり前だ」と苦りきった顔をした。
「それにしても、本当に知らないんだ。
日本で猫型ロボットと言ったら、即彼ぐらいの浸透率だよ。猫耳ないのに」
「国民的アイドルなのか」
「みんなの憧れの的だね。主に道具が」
「道具がなかったら役立たずなのか?ロボなのに」
「四次元ポケットというのに数々の道具を収めているんだけど、
それが映画だとたびたび奪われるか失くすからとてもカワイソウだよ。周囲からすごいなじられるから」
カノンは残念そうに「ロボなのに」と小さく言った。カノンの中のロボットは強いものであるらしい。
サガは「不憫だ」と何故かとても同情していた。
そんなサガの様子に映画を貸したらとてもハマりそうだとアイオロスは思った。
女神にお願いしてセットで買っていただこうかとこっそりと考えた。
「日本では毎週放送しているよ」
「人気なのか」
「定番だね。ご長寿アニメ」
二人とも詳しいアイオロスに対して感心するものの、逆に何故詳しいのかと疑問を無言で訴える。
「女神がクリスマスに養護施設にプレゼントを配る時に教えてもらったんだ」
「そういえばそんなことがあったな。子供達にも大人気なわけか、彼は」
カノンは「弱いロボがか?」と不満そうだ。
強いロボットといえば合体変形ロボットとかがあると星矢が言っていた気がする。
次会った時に詳しく聞いておこうと心の中にアイオロスはメモしておいた。
サガが完全に仕事を放棄しているとは珍しいと思いながらもアイオロスはサガの言葉を聞いた。
「もしもボックスで一体何をするのだ?」
「世界が変わるんだよ。……確か、平行世界移動だったかな」
「ふーん」
気のない相槌。カノンにとってはどうでも良いのだろう。
興味なさそうなカノンとは逆にサガは興味深げにアイオロスを見た。
「平行世界の移動?」
「えっと、『もしも魔法が使えたら』って言ったら、
数ある世界の分岐の中で『魔法が使える世界』を探し出して移動するんだ」
「自分が何か起こした行動をなかったことにも出きるのか?それをしなかった世界が存在するというのか??」
「そうなるね。私がこの話を『した世界』が今いるここで、もちろん『しなかった世界』も存在する」
サガは頷く。カノンは明後日の方向を見ている。
「世界は可能性の渦って言う考えがあって、自分で細かく取捨選択して今の環境を作っているわけだから――」
「当然、そうしなかった場合の世界があっても良いという訳か」
「世界を移動するのは基本は自分だけだから、移動したという記憶は自分しかないけどね」
「悪用し放題な道具だな」
カノンが呆れたように茶々をいれる。
「悪しき者から守護するのが持っている者の務めであろう」
「取られたり失くしたりしてんだろ?」
「話の展開の都合上ね」
「奪われたくなかったに決まっている。だが、それがエンターテインメントというものだ」
「仕方がないのだ」と力説するサガに、
カノンは「程遠い奴が何言ってんだ」と目で反論していたが、アイオロスにしか伝わらなかった。
カノンとしては、見も知らぬ弱いロボットの肩を持っているサガがよくわからないのだろう。
「もし、もしもボックスを使うとしたら?」
「もちろん『もしもポセイドンが完全に眠っていたら』だ」
満面の笑みを浮かべて宣言するサガにカノンは呆気に取られた。
アイオロスは想像通りだったのかつられて笑った。
「そうすれば、私がカノンと一緒に居る時間はもっと多くなっているはずだ」
握りこぶしで力を入れて断言した。
カノンは「そうか?」と口に出さないまでも疑問に思い、
アイオロスは「きっとその分、女神がカノンとの時間を使うじゃないかな」と内心で決め付けていた。
「技術が進化すればいつかもしもボックスも生産されるようになるのだろうか」
「22世紀ぐらいかな」
「なんとか22世紀ならばいけるであろう」
「……いけるんだ」
「ロス、そこ納得しちゃダメなとこだ」
不敵に笑うサガに、反応に困るカノンとアイオロス。
仕事の手を完全に止め雑談に興じているのにサガは今更気が付いたように、「休憩にしよう」と提案した。
静かにサガが席を立つ。
お茶を淹れにいったのだろう。
料理は何が起こっているのか、破滅的なサガだがお茶は淹れられる。ちなみにすごく美味しい。
アイオロスが睨むには、電子機器――近代的になればなるほど――との相性が致命的なのだろう。
なんでもかんでも、力押しでやろうとするからいけない。
説明書を読んで、注意事項を守ればあるていどは使えるようになるのではないだろうか。
本人にその気がないので無理だが。
サガが望んでいる通りに、カノンがやってくれるわけだから良いと言えば良いのだが、
時々気まぐれに挑戦しようとするから危ない。
カノンが書類を脇にどけたりとテーブルの上を整理しているので、
アイオロスは手伝うためにカノンの隣に移動する。サガが座っていたところとは反対側に座る。
「カノンはさ、もし……もしもが叶うなら何を願う?」
視線はテーブルの上を見たまま、さり気なくアイオロスは切り出す。
先程、サガの答えは聞いたもののカノンの言葉は聞いていない。
カノンは考えるように目を細めた。
「全てを捨ててまで、どこかへ行こうだなんて思わないね、オレは」
サガの姿が見えないのを確認して、カノンは呟く。
囁きに近い、限り無く独り言。
いつかのカノンを思いだす。
『ここよりいい場所って言うのが、そんなすぐに見つかるなら不満なんか持つ人間はいないだろ』
『捨ててしまったら、きっと歩けはしないから』
そう言っていた。
幼い哲学。
此処を捨てては何処にも行けはしないと。何処にも行かないことを選ぶと。
言葉遊びのようにそう言った。
幼い残像は現在のカノンの言葉に打ち消されるように消える。
「もしもなんていらない。この世界で十分過ぎる」
どんな顔で言っているのかと視線を上げれば、まぶしい位のはにかんだ笑顔だった。
昔の無理をしている苦々しい顔ではない。
今を生きているカノンの顔だ。
出しかけた言葉を喉の奥にしまいこみ、アイオロスはカノンに笑いかけた。言葉は不要だと判断した。
「な、なんだよ」
「嬉しいんだ」
困ったようなカノンにアイオロスは笑いながら答える。
何が嬉しいのかと聞かれても困る喜びなのだが、嬉しいものは嬉しいのだ。
「だって、平行世界へ移動するってことは今のこの世界を捨てるってことだろ。
この世界を捨てて、自分一人だけ望みに近づけて、それで……」
この世界を捨てない、置いていかない。カノンは昔からそうだった。
「行くなら一緒に」と。
「お前はどうなんだよ」
「……もったいないから使わない」
「なんだ、それ?」
カノンは手に持った書類を床に無造作に置く。
後でサガに怒られそうだとアイオロスは思ったが注意はしない。
「『宣言したもしも』の世界を選んでくれるわけだから、
言葉が通りになりすぎて望みと違うものだってことも当然ある」
「そうだな」
「どんどん選択肢が狭くなっていってしまうんじゃないかな」
アイオロスの言葉にカノンはよく分からないというように手近にあったクッションを抱き寄せる。
「たとえば私がカノンと二人、恋仲の世界をもしもボックスで宣言する」
「なんだその仮定。……いいけど」
「無事カノンとラブラブなわけだけど、勇気が出なくて手も触れられない二人とか当然不満を持つ」
「手ぐらいいいじゃんか」
「――もしもボックスで手を触れる以上の関係になっている世界に移動する」
「抱きつくとかか?」
「ま、……そういうのかな。
どんどん世界を移動していったら、可能性がどんどん小さくなっていってしまうんじゃないかな」
微妙に反応に困ったアイオロスに、カノンは疑問に思うものの説明を聞き続けた。
「手を触れて、そこから進んでいって必ずしも今言ったたとえの2回目の世界にはならないってこと」
「――手、触れる以上の関係は平行世界でいっぱいってこと?」
カノンがアイオロスの手を握る。
「アイオロスとなら手を握るぐらいなんてことない」ということの表現なんだろう。
「そういうこと。ちなみに前提条件は恋人同士ね」
「え、あぁ。……えっと仮定をすっ飛ばしたから多様化しただろう結果も一つしか選ばれなかったってことか」
「たとえば、手を握るどころかいきなりそれ以上に進展した世界や段階を踏んで育んでいった世界、
自分の意思で可能性は無限になったのに選択した後の世界に移動する訳だから発展性が低い。
世界はずっとそのままな筈がないのに移動したら結果に移行した訳だから、可能性はゼロになる」
「どんどん選択肢が狭くなる……?でも、また戻ればいいんじゃ」
「その世界が不満だったのに?――結局はカノンが言っていたように現状の世界を切り開いていったほうが健全」
カノンは掴んだアイオロスの手を強く握ってみる。
平行世界と言うのは同時間軸に存在する観測によりなりたつ現実。
観測されない現実はない。だから、此処にはカノンが今感じているアイオロスの手を掴んでいるという現実しかない。
たとえ、そうしない世界があっても此処にあるのは目の前にアイオロスがいるという現実。
アイオロスは手を掴んで考え込んでいるカノンに困ったような嬉しそうなどっちでもあるような顔で言う。
「そろそろ、サガが戻って」
「お前達!人がお茶を淹れている間に何をしている!!」
アイオロスの言葉に被さるようにサガの悲鳴じみた声。
肩をいからせているものの手に持ったお盆は微かも揺れてはいないところが流石だ。
アイオロスのズレている感想を他所に、すり足のような歩行で見る間に距離を詰める。
中身がこぼれないようにお盆をゆっくりテーブルに置いているにもかかわらず見た目の勢いはちゃぶ台返しのそれだ。
「いや平行世界の話をしてて」
「それと手を繋ぎあっているのが、どう繋がる」
「煩い!関係あったんだ」
「繋ぎ合っているんじゃなくて、握られているんだけどね。サガ」
アイオロスの言葉にサガの沸点がまた下がった。
「とにかく、離れなさい!」
「手ぐらいでいちいち煩い」
「ぐらいではないだろ」
「ぐらいだろ」
言い合いを続ける双子をそのままに、アイオロスはサガが持ってきたハーブティを空いている手で口に運ぶ。
清涼感にためいきをつく。
それに気が付いたのかカノンがアイオロスに手を握っていた手を放し、その手でカップを取った。
「ん、うまい」
素直に褒められて嬉しかったのかサガはカノンの隣に腰をおろす。
3人で座ると本の少し手狭ではあるが、今は誰も文句は言わなかった。
サガもカップとソーサーを手に取り、ゆっくりと味わった。
アイオロスがすでに3杯目を飲んでいることも気付かなかった。
それから、仕事はサガとカノンの位置を換えて3人で行った。
カノンがサガに渡し、サガとアイオロスで振り分け処理していく。
空が暗くなる前に終わることができた。
女神の采配のお陰だとサガは上機嫌だった。
いつもはこの量を処理するのに次の日までかかってしまう。
アイオロスがカノンに礼を言うとカノンは「こっちこそな」と笑って返した。
「晩飯、食べていくか?」
「今日は遠慮しておく。コレを上まで持っていかなきゃならないしね」
処理した書類を指して言う。
カノンは紙媒体でこの量は馬鹿みたいだと以前から思っていたがやっぱり聖域はおかしいと認識を深めた。
「私も手伝おう」
「わざわざ?」「サガが?」
意外そうに同時に二人に言われ、サガは眉を寄せる。
アイオロスとカノンは目と目で「だって」「なぁ」と会話した。
「行くぞ」
アイオロスの返答を待たず、書類のきっちり半分を持ち歩いていってしまうサガ。
カノンはその背中に「いってらっしゃい」と小さく言った。
「カノンは来ないのかい?」
「それを更に半分って?……サガに殺されるぞ」
からかうようにカノンは言って、台所へ歩いていった。
「オレは飯作るから、お前もさっさと行け」と振り返りもせずに言う。
「食べにきてもいいように多めに作っといてやるから」
エプロンをして振り返るカノンに噴き出すアイオロス。
「そんな姿でそんなこと言われたら、来ないわけにいかないね」
「……なんで、笑う」
「毎日味噌汁作ってくださいとか言いたくなるよ」
「なぜ、味噌汁――別に毎日は無理だが作ってやるぞ?」
「あぁ……ありがとう。いってくるね」
「いってらっしゃい」
それにまた笑うアイオロス。
カノンに「もう!とっと行け」と追い出された。
双児宮を出て、階段を見ると柱の所にサガがいた。
「待っててくれたんだ」
「遅い」
不機嫌さを隠さないサガ。
アイオロスはしみじみと素直になったものだと思った。
「カノンと新婚さんみたいな会話をしたよ」と言いたくなったが本当にキレられそうなので我慢した。
処女宮を過ぎ天秤宮に上る階段でサガはポツリと言った。
「どうして急にもしもボックスの話なんかしたのだ?」
「……ちょっと、思いだしてね」
それが聞きたかったのかとアイオロスは納得する。
サガがわざわざ荷物持ちをするなんておかしいとは思った。
カノンが一緒に来なかったのもサガの思考を読んでいたからか。
まだまだだなとアイオロスは内心で自分に減点する。
「思い出した?」
「何々が起こらなければ、こんなことにはならなかったってサガはよく言うから」
「そんなに言っていたか?」
「言っているよ。もしもボックスがあれば全部解決……と思ってね」
「実際はわからないけど」と笑うアイオロス。
サガは「22世紀か」深刻な顔をして考え込む。
「教皇に聞けばなんとかなる、か……?」
「どうだろうね」
22世紀に本当にそこまで科学力が発展するかは知りようがない。
その前に人類絶滅にならないよう、頑張っていかなければならない。
サガが22世紀まで生きる気でいるのは元気な証拠と思えばいい。
「サガは本当に使いたいんだ」
「――カノンは、使わないと、言ったのか?」
「この世界がいいって」
サガは嬉しそうな悲しそうななんとも複雑な表情を作る。
静かに「そうか、カノンはそう言うだろうな」と言った。
アイオロスはサガがカノンに何を望んでいるのかイマイチ掴めなかった。
サガは俯く顔を上げ隣のアイオロスを見る。
「アイオロス、私は『女神を殺そうとしなかったら』と答えると思ったか?」
「……『もしもカノンと離れなければ』だと思ったんだけどね」
サガはアイオロスの言葉に表情を崩す。
低く「そうか」と、うな垂れるように言った。今度は顔を背けはしなかった。
「予定調和だったんだと、カノンは言うだろう」
「……予定調和?」
「なるべくしてなったのだ。13年間の別離も私達の今の関係も」
溜め息をつくようにサガ言葉を続ける。
「何かがない世界というのは、全てが違う全く別の世界と言うことだ、だからカノンは望まないのだろう」
「サガは嫌なの?」
「わからない。自分を否定したいわけでは、今更ない。
もしも、もっと正しい選択をその時に出来ていたのなら、ここよりもいい今があったかのも知れない」
「そう思ってしまう」とサガは言う。
その言葉の裏に「カノンと同じように思えない」のだという言いたくもない本音があるのだろう。
アイオロスは真摯にその言葉を肯定する。
「別にサガはカノンじゃないんだから、当たり前だよ」
「……わかっている」
「昨日を悔いるのなら明日はきっといいに日なっているよ」
アイオロスは「反省しなければ過ちを繰り返すだけになるだろう」と笑った。
「気軽に平気だと言うな」と言うサガに「大丈夫、大丈夫」と何度もアイオロスは答えた。
そんな話をしている内に天秤宮は過ぎ、天蠍宮が目の前だった。
時間帯のせいか無人であった天蠍宮を通り人馬宮に入る。
アイオロスはサガに断り、ちょっと自室へ寄った。
「なんだ?」
サガがアイオロスの手に持った分厚いCDかDVDを見る。
2枚組みになっているようだ。
「サウンドトラック、聞いてみるといい。……瞬から借りたんだけどね」
「渡すなら帰りにすればいいだろうに」
呆れながらも受け取り書類の上に乗せるサガ。
「ここから教皇の間まで競争しよう。勝った方がカノンにおかずを多くしてもらうということで」
「な!」
「CD、落として割ったら瞬に怒られるからね……スタート!」
戸惑うサガを尻目にさっさと走り始めるアイオロス。慌ててサガも走り出す。
途中から何を思ったのか、相手の進行を妨害するのが目的に変わってしまい、
十二宮内で必殺技を使用し続けるという行動に出た。
騒音は気をつかったのか最小限であり、下の住人達は気が付かなかったらしいが、
シュラ、カミュ、アフロディーテは大変な迷惑をこうむった。
そうまでした勝負の勝敗は二人ともの負けというべきな散々な結果となった。
シュラがいち早くカノンに伝えたらしく宝瓶宮で4人で食べるセッティングをし、
アイオロスとサガの夕飯をシュラとカミュとアフロディーテに分け与えるという話になった。
三人とも年甲斐もなく本気で悔しがっているアイオロスとサガに微妙な顔しながら遠慮したものの、
「被害の大きさからはこれでも生ぬるい」というカノンの言い分に頷いて、ありがたくカノンのご飯を頂いた。
大人気ない二人を哀れに思い、カミュはミロのために作ったらしいスープをあげていた。
カノンは「甘やかすな」といったが「体力がないと直せないだろう」とのシュラの言葉に納得してスープだけは許可した。
アイオロスは「足りない」、サガは「カノンのご飯が食べたい」と正座しながら言った。
そんな二人を「自分の立場が分かっていない」とカノンは外へ放り出した。
捨て台詞なのか、「お前達のせいで部屋の中なのに寒いんだからな」というカノンの言葉はとても印象的だった。
「なんかすごいね」
「あぁ、深く抉れているな」
自分達がやったというのにどこか他人事のように言う。
出力を絞り精度を高めたからか、全体的な破損ではなく、一部が崩壊状態になっている。
下を見て、磨羯宮がほとんど地盤沈下したようになっていてアイオロスとサガは青ざめた。
教皇がいたら半殺しでは済まないだろうと同時に思った。
ちなみにCDはちゃんと無傷だった。
「こういう時こそ、もしもボックスか?」
「いや、タイムふろしきだ」
2006/04/05
海界top
あとがき
500ヒットのキリリクは月埜さんより、
「『双子の6のお題[No.2]気付かせてくれる人』で『アイオロス・サガ・カノン』」でした。
三人が三人ともに「気付かせてくれる人」になってる感じを目指しました。
特に「どれ」がというよりも積み重ねです。
三人の話なのに何故か未来から来たどら焼き好きロボが幅をきかせて……。
もしもボックス論はそういう考え方もあるっていうのの一つですので気にせず流してください。
(パラレルワールドではなく世界を作り変えているって考えもありですから)
お題はここから。[別窓で開きます]