今だから言えること

世界が欲しかったって、誰だって自分の世界が欲しいだろう。
当たり前の願望。
自由。
自分が自分であるために自己を確立させ行使する空間。
誰だって欲している。
本当の自分とかいうもの。
大切な自分と思えるための何か。
欲しがるのが罪ならば、人は思考を放棄した肉人形であるべきだ。

狭い世界で二人だけ。
閉じた世界に囚われて。
拒否はできない。
拒絶はできない。
受け入れ、壊し続けて。
今よりマシな明日になって欲しいと、信じてもいない神に祈る。

誰かがきちんと世界をあげれば良かったのだ。
二人で一つの世界ではなく。
二つで一つの世界を二人に。

泡沫の夢でも縋って

幸せな夢を見よう。
それだけが許される全て。

幸せを夢に見よう。
それだけで全てを許そう。

君とのいつかを夢に見よう。
傾く心を忘れよう。

いつかの君を夢に見よう。
心が傾かないように。

アイオロス(黒でもいいかもしれない)

アレは潔癖すぎて壊れている。
ありえないものを夢想して、ありえないものに傾倒する。

弱さは罪ではないけれど、負けは負け。
無知に罰は無いけれど、思い知らされるだろう。
いつか、何も知らなかったのだと悔やめればいいねと……。

何も語らず。
誰一人として言わず。
教えず。
導かないのは、知らないことが理解できないから。

半身は分かってくれていただろうに、
あえて言わずに見過ごしたのは、
愛情からだったのに。

半身が触れてすら分からず分かれずにいたのは、
壊れているのに壊れたことに気がつかなかったから。

全て気遣いは空回り。
まるで意味が無かった。
本当にどうにかしたかったのなら、
力ずくにでも目を覚まさせれば良かったんだ。
もう、力がなさ過ぎたのだとしても。
もう、歩く気力がなくなっていても。

もう駄目になっているのだと、ひとこと言えば良かったんだ。

サガと女神

私はあなたを許せない。
あなたも私を許せない。

いつまで経っても、縁は切れず。
いつだって、頭から離れない。

煩わしさと敬服。
忌々しさと崇拝。

それは自分自身だというのに

黒い物が見える。
真っ黒いもの。
呪いみたいな汚れ。
こびり付いたもの。
とれない。
どうしてだか拭えない。
いつの間にか付いてしまった傷のように。
黒い。
こんなもの。
穢れている。
流してしまいたい。
なくなってしまえばいい。
消えて欲しい。
醜い。
いらない。
治らない。
黒い。
暗い。
悲しい。
嘲笑。
黒いものが……。

ウソツキと君は罵るのだろうね

ただ、一緒にいたかったのだと言ったら。
君は信じてくれるだろうか。

ただ、傍に居られればいいと言ったなら。
君はわかってくれるだろうか。

こんな風に考えることは罪ですか?

抱きしめて今すぐ。君をここから連れ出したら。世界はどう変わるのだろう。

彼は狂気の闇に落ちるのか。
魅惑の楽園に昇るのか。

「カノン」

それはとても綺麗な響きで。
それはどうしようもない切なさがあり。
それはなんてことない名前という存在。

特別な名前。
唯一な名前。
大切な名前。
永遠の名前。

それはとても切なくて。
それがどうしようもなく儚くて。
それ自体はなんてことのないように存在している。

揺らぐ想いが嘘のように。
消え行く存在が真のように。

この痛みも。
この悲しみも。
この消えない絶望も。
この果てしない祝福も。

気にしていないように。
存在していた。

別格で、秘密で、最も愛しい者の名前。
響きが持つ美しさは存在の美しさであるはずなのに。
隠蔽され、迫害され、籠の鳥。

だから、綺麗で切なく儚く存在する。
愛の音。

それはまだ、幼い頃

お前が私を形作り。
私がお前を固定する。

二人で一人で独りの二人。
孤独はカノンがいるからこそ。
静寂はカノンが居ないから。
淋しくて辛くてけれどもお前は居ないから。
何が幸福なのかは分からない。
どれが苦しい事なのかもまた曖昧に落ちていく。

私がカノンをカノンたらしめる。
カノンが私をサガだと肯定する。

だから、全ては私たちの物。
世界は二人で完結している。

それでよかった。
それがよかった。

それと多分アイオロス以外まだ幼かったから

気をつけたところで違和感は拭い去れないもの。
だというのに隠し通せたのはひとえに「もう一人いるわけがない」という先入観。
そして簡単に自分の匂いを消してしまえる彼だったからだろう。

世界が見えない誰も居ない

私を私たらしめるあの子が居ないのです。

私は私を保てません。
私が私でないのなら、私は一体誰でしょう。

私以外の私も確かに私の中に居て、尚更わからなくなるのです。
この私という存在は何なのでしょう。

答えは闇に沈むのみ。
教えてくれるあの子は海に溶けてしまったから。

幼いころ

どうか、どうか助けてあげて。
誰にも何も伝えなかったけど、ずっと本当は自分自身の手でこそ助けたかった。

無理ならばどうか、誰か。
神さま。
我らの女神よ。
哀れなあの子を助けてください。

どうか、助けてあげて。

自問自答

君はどこにも居ないんだ。

――本当に?

私がどこにも居ないから。

――本当に?

誰が訊ねた。誰が呼べる。誰が言える。誰が示せる。

――本当に私に弟は居ましたか?

どこにも居ないからわからない。
どこを探しても居ない。

――本当に?

嘘ならどんなにいいだろう。
虚構ならば慰めにもなろう。

――本当に?

懺悔します。懺悔します。
鏡像に縋ることは出来ません。
虚像を愛することは出来ません。
だから、早く返して下さい。
私の元に返して下さい。

アレは私のもので。私の影で。
私自身以上に私を形作るものなのです。

――本当に?

今更、真実は関係ない。
失われたことに変わりはない。

薔薇の君の懺悔

ごめんなさい。
ごめんなさい。

裏切りました。
私達は貴女を裏切りました。
許されないと知っていてこの道を選んだのです。

ごめんなさい。
ごめんなさい。

不確かな貴女の愛はあまりにも頼りなかったのです。
あの日の世界には今の想いは遠すぎて。
裏切りですら甘美な繋がりだったのです。

ごめんなさい。
ごめんなさい。

私は同胞すら裏切っていたのです。
愛に縋れば罪も忘れられました。
自業自得を肯定していただけでした。

何も知らずに生きていけたら良かったのに。
……そう自分かわいさに彼をも裏切っていました。
みんな笑って許してくれましたが、そんな訳にはいかないのです。

報いということ

君に触れることが出来れば幸せだろうに。
……そんなことは望めない。

今更、愛の言葉も吐けない。


2006/02/05