例え結果論だとしても、こういう道を歩まなければ、こういう自分達にはなれなかった。
喜劇を演じて、 戯言に惑って、 泡沫を愛するならば、望む箱庭を得られるだろう。 真心を伝えて、 言霊は発せずに、 現実を欲するならば、願った世界が手に入るが運命。 約束事みたいに、道を違えてしまう。 束縛ではなく契約だ。そうして、君は安心を買う。
そばに来て。 そばに居て。 それだけで全てを許してあげるから。 もう一回約束をしよう。 君の安心できる誓いを立てよう。 もう、絶対に離さない。 君が君を忘れない内に。[海界・冥界の設定]
証が欲しいというのならあげよう。 誓いが欲しいというのならあげよう。 権利が欲しいというのなら授けよう。 時の流れは残酷に日々を形作る。 許してあげよう。 裏切ろうとも。 敵に味方しようとも。 いつか戻ってくるのだから。 どちらにしろ私の前に跪くのだから。 どちらにしろ私のものなのだから。 全てを許そう。 守れなかったのは私でもあるのだから。 印が欲しいのならばあげよう。 大義名分が必要ならば作ろう。 義務が欲しいというのなら授けよう。 時の流れは幸福な日々を形作る。 自分こそが泣きたかったからかもしれない。[ソレント]
泣いているようだと思った。 崩壊の音と降るはずのない雨。 泣くわけがないと思っていたのに、泣いているようだと感じた。 悔いているのかと訊ねられればいくばかはマシだっただろうに。 最後まで、そんな言葉は掛けられなかった。 ひとときの激情か。 先を見通した打算か。 あの時の自分は何を望んでいたのだろう。 泣いていたのはこの世界だろうか。 一心同体はマイナス面すら共有するから
全てに、ただ疲れてしまう。 そう、疲れていた。 二人ともが疲れていたのか、 心を削り続ける半身に耐えかねたのか。 引き摺られる。 悲しみも。憎しみも。愛しさですら。 相手に引き摺られ増幅される。 自分が疲れていても、半身が笑ってくれるなら平気。 自分が平気でも、半身が苦しんでいるのならもうダメ。 そんな繋がり。 切ることはたやすく。 結ぶことは難しい。 あり続けることすら煩わしさと一体。 そして、選ばずに歩んでいって、疲れてしまう。 二人ともが疲れていた。 虚勢を張った叫びは届かず。 虚偽の善意を塗りたくられた。 そうして、道をたがえた二人。 別々に生きたから、別々に死んだんだ。
一緒に生まれたから、 一緒に死ぬんだと思った。 痛い、イタイ、痛い、イタイ、痛い、イタイ
猛烈な痛み。 痛烈な刺激。 降って湧いた飢餓感。 何かが無くなってしまった感じ。 失われた苦痛。 こんなに痛いのなら生きることすら出来ない。 それでも、自分として逝きたい。自分を生きたい。 贅沢すぎる望みでも。 犠牲が多すぎようとも。 走り出したのが流れに沿っただけでも、自分の意思。自分の決定。 まだ、ここに居たい。 こんな痛みで消えたくない。 助けなんていつだって呼べもしないのだから。 今回だって痛みすら流せるはず。 居たい・遺体、居たい・遺体、居たい・遺体 苦い呟き
君のことを求めれば、 きっと幸せなんだろう。 ……それができたら、苦労はしない。 新たな、はじまり。それは、門出。
気が付いたときにはその辺は血の海で。 辿り着けない場所にいた。 犯した罪と。 不毛な贖罪と。 気が付いたときは全身が染まる蒼の中で。 ただ目覚めただけだった。 ここに、まだ生きているのに全部が終わった。
壊れていく景色。 それは比喩ではなく、世界は崩れた。 崩壊は望んだこと。 積み上げた願いの果ての決壊。 降り注ぐ水は、頬をぬらしていく。 終わりの光景。 それは自分が作り上げた結末。 生き急ぐように目的を追いかけた。 叶った先になにがあるのか。 何もなくても動き出したら止めようがない。 全てを道ずれに。 所詮、自分は誰にもなれはしない証明に。 成功したはずなのに。 間違っていないのに。 喜んでいいはずで。 だっていうのに、こんなにも。 心の中は苦々しくて。 降るはずのない雨が全身をぬらす。 潮の香りはまだ、優しかった。 仮定の過程[冥界設定]アイオロス
もし、カノンともう少し早く会うことができたのなら。 世界は、自分達の関係は全く違ったものになるのではないだろうか。 例えば、聖戦を待たずして名を知ることができ、 何一つ失わずに済む、そんな夢想。 例えば、何一つ知らなくても、 もっと単純に想いを伝えられたのなら、二人の距離は違ったかもしれない。 ありそうな未来予想図。 そして、それはありえない未来。 未来は現在でそして、もう過去。 通り過ぎてしまった現実に対処のしようもない。 けれども、もし、と考えることを止めなければならない理由もない。 だから、暫くはそうやって自分を慰めよう。 手遅れが悔しいから。 言いはしないけれど、自分の隣にこそ居続けて欲しかったから。 仮定の話
もし、カノンと兄弟ではなかったら。 双子ではなかったら。 ありえないけれど、あったかもしれないこと。 そうだとしたら、二人とも別人。 サガという名とカノンという名を持つただの二人。 その二人がどうなるのか興味がないわけではないけれども、やっぱり違和感しかない。 自分とカノンの関係性が根本から覆り、全てがリセットされてしまう。 どこに居ても、どんな場所に居ても。 カノンがカノンであるのはサガが居るから。 サガがサガで居るのはカノンの存在があるから。 だというのに、全てを覆す仮定。 ありえないからこそ、安心して想像できる仮定。 誰も越えることができない壁に安心する。 誰であろうと触れることができない聖域にほくそ笑む。 だって、これは仮定の話。 起こりえない仮定の話。 吐き捨てた言葉
お前の言う正しさはただ痛いだけだ。 昔と今と、現実と事実と、本音と内心。
届かぬ祈りならば、意味はないのだと思ったことがある。 ――祈らぬのならば、確かに結局は同じことだな。 半身は言葉にしなかったこちらの内心をそう嘲った。 全てが等価。 ある一人だけを除いて。 そんな人間だから、祈るのならばそのただ一人にだ。 人間一人にそれほど背負えるわけがない。 だから、やっぱり。 祈ることなんて無意味ではないのか。 否定はしたくはなかったから、疑念として心に浮かべた。 怖いこと。 やり切れないこと。 けれども、それが自分達の現実。 届いた祈りすら不毛であったという事実よりは、 祈らなかった自分の愚かさを恨んだほうがマシ。 そんな考えは歪んでいるのだろうか。 自分以上のものすら供物として差し出さなければならない祈りに意味なんか見出したくなかった。 祈るならば誰に? 縋るのではなく誓いを捧げる。 そうして、自分は自分になる。 半身が半身として生き抜いたように。 祈りは決意の証明として自分に刻むためのもの。 出た結論は遅かったが、手遅れではなかった。 |