伝えたいのは、たった一つとかそんな戯言。

もう一度会えたならなんて言おう。
もう二度と会えないからこその夢想。

もう一度触れ合えたのならどうしよう。
もう二度と感じ得ぬ体温は忘却の一途を辿ってて。

三度目の邂逅はなにをもたらす?

引き止めて欲しかった。

生きていくのが、
呼吸をするのが、
歩んでいくのが、
死んでいるようで、
喘ぐように、
転がり落ちて行った。


気付いて、
触れて、
愚かしくても。

憐れみと悲しみと寂しさは違うもの。

生きることは悲しいことだと思っていた。
だって、片割れはとても生き辛そう。
呼吸をすることすら、痛みを伴っているみたいで。
じゃあ、息を止めてしまえばいい。
けれど、それでは死んでしまう。

何だか、悲しい。

上手くは回らないことは普通なのだと気がついた。
今更。
失敗で反省して学ぶのは人として当たり前だけど。
自分のソレは規模が人とは違いすぎ。

悲しい。

それでも、好きだと気が付いた。
世界を愛しているのだと思った。
大切にしたいと思った。

復讐を唱えても。
憎しみを叫んでも。
結局、根底は変わらない。
根源も根本もずっと変わらなかった。

悲しいけれど、それだけじゃないのをずっと前から知っている。

二の句が告げなくなってしまう。[アイオロス]

同じ姿だけど違うのだから。
それは、誰になるのだろう。

名前はない。
聞いてない。
知りはしない。

聞いたらきっと知ってる名前が返ってくる。
けれど、違うと確信できる。
君は彼じゃないし、
彼も君とは違うんだ。

何も、誰にも、教えられない名前なら、
それって、ないのと同じになるのだろうか。
確かにあるだろうに。
何でこんなことが起こっているんだろう。

メルヘン思考回路的泥沼劇

何か望んでいたはずなのに、かすむ記憶の奥底に沈んだ。
もう触れられないところにある。

洞窟の奥に大切に仕舞いこまれた財宝のように。
活火山のマグマの中に落としたように。
気まぐれな妖精の悪戯のように。

もう触れられないところにある。

女神様が嘘をついたために返してくれない。
パンの道しるべは鳥に食べられて見当たらない。
悔いることも学ぶこともしない白雪の乙女を反面教師にしたのに。
なんで、100年の静止を味わわされたような疎外感。

もう触れられないところにある。

呼びたい名前があった。
王子さまではなく。
縋りたい名前があった。
魔法使いにではなく。
触れたい人が居た。
魔女にではなく。

共に生きたいと望んだ事実に、もう触れられない。

震えた指先は何も掴めず

怖がって、もう一歩も歩き出せない。

完璧の潔癖者は果てに

私達はいつだって間違って覚えていく。

「それでいい」と言える君に、
やっと「そうだね」と言える自分になれた。

『これが人生なのか。ならば、もう一度』ってね。

運命をサダメと読むなら、
なんだか仕方のない気がする。

定められているのだから。
俺達はスタート時点でこけているようなものだ。


決まりや規則を破るのが嫌いなら、
運命に従って流れていくのも一つの手段でいいだろう。

切り開くのも悪くないけど、血が流れすぎるだろう。
賢く生きる必要はないけど、傷つく必要だってない。
必然を愛することは早々悪いことじゃない。

そろそろ、もう大人だし、肩の力を抜いて行こう。

それは在りし日の面影を鮮烈なまでに呼び戻した。

ふいに途切れる笑い声。
振り向くと誰もいない。

呆然と愕然と、するしかなかった。

必死で探した。
どこへ行ってしまったのか。
確かに隣に居たはずなのに。
あるいは後ろに居たはずなのに。

どこへ置いてきてしまったのだろう。

駆けずり回った挙句、元の場所。
不思議そうな顔をした弟はアイスを両手に持っていた。
脱力するように理解する。

なんてことない。
なんてことのない話だ。

もう、けして置いて行かない。絶対に見失わない。
判っていたからこその空回り。

へたり込むような兄に弟は露天で売っていそうなアイスを差し出した。

出せない手紙を書くように、心で送る言葉を綴る

今も頭上の空は青いまま?
手に入った全ては幸せと呼べる?

この問いに答えを期待はしてない。
けれど、綴らずにいられない。

今は空がないのです。
代わりに美しい水底を下から見れる。
こんな幻想的な風景を得られて、きっと幸せ。

言い訳をしないのは強がりではなく

それをし続けると言うことが、
たった少し残った自己の保身のための行動だった。

理解なんて求めてはいません。
許しなんて欲しくもないんです。
全て自分のためのことですから。

どちらにしろ楽になんかならないのだから。

代償行為。
それが安心できる方法。
代償好意。
本当は触れたくも無いくせに。
代償厚意。
そんな思いは痛くて重くて邪魔なだけ。

何を捧げればいいかなんて聞くなよ。

神の言葉を聞きたくて

――あの哀れな男をどうかお裁きください。

一人と一人がぽつりと「帰りたい」と言った。

そうして彼は選んでしまった。
まるで始めの一歩目から決められていたように。
先のない道を。

そうして彼は選んでしまった。
漠然と怠惰に流れに任せたように。
先を見ない道を。


上と下。
兄と弟。

戻りたい場所はどこだろう。



2006/05/09