閉ざされた箱庭は何も作りはしない

とりとめのない言葉。
拙い約束。
契約のような気狂い。
恐怖ゆえの逃避。
守りたいものを守るために壊し続ける。

けれど、それしかなかった。
ここには、それだけがあった。

ただ私はカノンが好きなだけだったのだ。

今更になって、
ハッと目が覚めるように気が付く。

拾いこぼした大切なもの。
置いてきた大事なもの。

カノンが好きだ。

少年が少年に語ったある心の内[聖域]

――どうして、二人は一緒に居るの?辛い想いをしてまで。

だって、一人は淋しい。
淋しくて淋しくて。
やっていけない。
淋しさで死んでしまう。
今更一人でいることなんて出来ない。
二人で生まれて二人で死ぬんだ。
それは約束。
ずっとずっと続いていく。
生きているのは二人でいるから。



聞かれて、そうあの時、答えたけれど。
結局、人は淋しさでは死ねないらしい。
離れ離れで13年間も生きれた。

でも、結局は。

兄は一人で死にました。
勝手に一人で死にました。
ただただ、悲しくなりました。

通り過ぎるからこそ温もりは尊い

たとえば温もりを定義する。
ソレってなんて無駄な行為?
手に馴染んだら理解できない。
同じ温度なら意味をなさない。
冷たかったら攻撃か?

人それぞれ、持っている体温は違う。
触れ合って感じられた温もりはその一瞬にしか存在しない。
だって馴染んでしまうから。

愚かさに泣きたくなる日


逃げても逃げても逃げられない。
繋がっていて離れない。
血だから?

……あぁ。もしかして、愛してるとかそんな理由?

ゴミはゴミ箱へって、きっと正しいんだろうケドショックでしたよ?

綺麗なものが欲しい。
それを持っている自分も綺麗な気がするから。
正しくしていたい。
だから、間違いは許さない。


その精神は分かるけれど、だからって何でも許せるわけがない。

置いてけぼりってこういうことだと絶叫しながら思ったものだ。

よく分からない内によく分らないままに、世界は破綻してしまった。

愚かに見えるのは、君が何も持ってはいないから。

私は君が思うよりも、もっともっと穢れていた。
だからこその潔癖。
怯えるように。
心を殺さず迎合する。

ある結末の示唆[冥界設定]

全てが揃った満たされた平穏な世界。
大切な者が欠けていた。
平和で安定した秩序のある理想の体現。
大事な者が見当たらない。

この目は本当に見えているのだろうか。
どれ程のものを見逃し続けていたのか。
顔を上げねば世界は見えない。
簡単で単純で当たり前の当然。

不可視の者には触れられない。
崩れていく。
精神か。
肉体か。
壊れていく。
自分自身か。
片割れか。


愚かさを呪いもできない哀れさに、自分からすら目を逸らした。

愛しい人と逝ける幸せ、そんなお伽噺。[冥界設定]

こんなにも愛しているのをどう伝えればいい。
一目見た瞬間から恋に落ちていたなんて、とんだ戯言。
あり得ざる激情が胸を焼いた。

こんなにも誰かを必要とするなんてあるはずがない。
触れ合えば触れ合うだけ、痛みが増えるはずだった。
憎み合って殺し合ったのだ。

けれど、芽生えたこの感情は――。

永遠は手に入らない。永劫すら程遠く。ならば、一時ぐらい与えてくれ。

手に入らないものは美しく。
触れられないもののなんと甘美なことか。

傷みは焦がれからきた腐敗。

儚い幻想の中で揺れる想い

消えない痛みを抱きながら、
それでも微笑む君を、美しい、と思うんだ。

カノン[海界設定]

愛していると言われたって信じられるわけがないじゃないか。
疑いたいわけじゃない。
嬉しくないわけじゃない。

でも、分不相応って言葉があるだろう?

彼と神[海界設定]

闇の境界、光の境界。
黒と白が織り成す物語。
漆黒においての閃光。
夜の暗がりの線香花火。

神が命を瞬くような光と称した。
それに「蝋燭の炎は我々に長過ぎる」と選択し続ける青年は言う。

泡沫の夢を愛でるように温度の無い優しさで冥界の王は言う。
「壊すことも手に入れることも同義」であると。
渇望も甘受も。
慟哭の祈りも。
無様な咆哮も。
全てまとめて平等であると神は言う。
受け入れ咎め理解しもしない神は言う。

完全なものはこの世にはない。
完璧な愛も。
壊れない想いも。
頑丈すぎる檻のような絆も。
本当に大切なものはこの世にはない。

虚無主義でも厭世を極めているわけでもなく、
一欠片の疑いもなく何かを信じることはできない。
純然たる事実。
そう神は繰り返し言う。

神はとても慈愛に満ちていながら酷薄。
青年はその在り様に敬愛を示した。
神はただ喜びもせずに受け止める。

こんなに人を愛しいと想ったことはない。

軽やかに吹く風。
揺らされる葉。
作られる木漏れ日。
そこに当然のようにいる。

木の根元で猫のように丸くなって日向ぼっこ。
時折寝返りを打っては眩しそうに目を細めて、定位置に戻る。
そんなことを繰り返し、涼しくなりだすと冷えたのか上半身だけ起こす。
薄目を開けてやっとこちらの存在に気付くんだ。

安心し切って、油断し切って。
世界が優しいだなんて、きっと本気で思ってる。
風除けに使うつもりか、何も考えずすり寄ってきて拒絶なんてできるわけがなくて。
頭を横に倒して密着度を高めると笑うようなふるえが伝わる。

一言名前を呼ぼうとして、遮られる。
仕方がないことだけれども、あくまで念入り。

けれど、変わらずにまどろんでいて愛しいと思った。
寄りかかられる重みに幸せを感じる。

そんなある昼下がりの終わり。


2006/10/25